パクリがばれてからも、さえこは何ら反省していなかった。
谷藤が作った「占い x お金」の動画バージョンを称賛していた。
だが、矢部はその直後、小説仕立てでさえこがしてきたことすべてを公表した。
やっとさえこは少しおとなしくなった。
もっとも矢部に対して悪いと思ったわけではない。
FP業界は狭い。矢部と共通の知り合いも多い。
(矢部はどこまでしゃべったんだろう・・・)
さえこは自分自身がキラキラしていると思っている。
その「評判」が落ちないか気が気ではなかっただけだ。
たまたま、自分の誕生日がやってきた。
しかし、SNSに寄せられたお祝いのメッセージはわずか数名であった。
職業柄メッセージを贈らなければいけない人、
全員にメッセージを贈る律儀な人、業界とは全く関係のない知人、
そして、パクリ事件の首謀者、それくらいだった。
FP業界の人間は誰も祝ってくれない。
さえこはどんどん疑心暗鬼になっていった。
みんな知っているのかもしれない。。。
その間も株のコラムを書いた。
でも、それをいつものようにSNSでアナウンスしたら、
「よくもまぁ、しゃあしゃあと」と思われそうだし、
アナウンスしなければ、
「パクってるからできないんじゃないの?」と思われそうだった。
どっちに転んでも黒歴史が消えることはない。
結局、さえこは誰にもアナウンスせずにいた。
鳴りを潜めて反省しているフリもいいかもしれないと思ったからだ。
誰にも読まれないコラムを書いて、何やってるんだろうとも思った。
詮索好きの人間は、自分が詮索されるのを異常に嫌がる。
(・・・そうだ)
さえこは、矢部が書いた小説がGoogle検索されないように削除依頼した。
この小説をGoogle検索する人は岡澤さえこ以外、いない。
みんな別ルートでこの小説を読みに来ているのだ。
だから、削除されたところで矢部にとっては何の影響もなかった。
事実じわじわとアクセス数は増え続けている。
ところで、たかが小説を削除依頼することは
「私がこの小説の主人公のパクリ犯です」と認めていることに他ならなかったが、
何故かさえこはすごく安心したようだった。
そして、事件から1か月も経ったことだし、久しぶりに
「コラム書きました」とSNSにアナウンスしてみた。
・・・やはり、
いいねはほとんどつかなかった。
それが大人の答えだった。
fin