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Cafetalk Tutor's Column

Abemomo 講師のコラム

小説:冴えないさえこ 3/3

2019年9月3日

3章 冴えないさえこ

 

矢部がさえこのパクリ記事に気づいたのは、さえこが最初の記事をアップしてから1週間ほど経った頃だった。

桐子にパクられてからというもの、時々はこういう奴らをチェックしなければいけないと思い、たまたまサーチをかけていたのだ。

 

「この野郎!!」

 

激昂というのはこういう時に使う言葉なんだろうかと思うくらい矢部は怒った。

さえこというのは前から矢部に執着していて気持ち悪い女であることはわかっている。しかし、面識がある人間の記事を果たしてパクるだろうか。ありえない。どんだけ厚かましいんだ。

そして、これからどう出るのか、しばらく泳がせておこうと思った。

 

その後、さえこは奇妙なアップの仕方をした。

4部作の1つ目の記事を出してから、全く違う記事を間に挟んだ。それから2つ目の記事をアップした。おそらくパクリではないと言い張るために4つまとめてという投稿を避けたのであろう。でも、実際に自分で書いている人間なら思うことだが、4部作をわざわざ分けて投稿するのはすごく不自然なことで、「怪しいです」と言っているようなものだった。

 

裏でそんなことを思われていたことはつゆ知らず、さえこは2つ目の記事がアップされた時点で自分のSNSに宣伝をした。「私のコラムがアップされました~」と。

ご丁寧に1つ目の記事の宣伝も怠らなかった。1つ目がアップされた時は「見つからないかな」という心配から告知できなかった。それが、3週間も経つと「もう大丈夫だろう」に変わった。

 

にもかかわらず、せっかく宣伝した2つ目の記事を覆い隠すかのように、翌日また別の記事を挟んだ。「後ろめたいです」と言っているかのようだった。

 

そして矢部はやっと、このタイミングだ!という時に、「自分のコラムがまたパクられた」というブログを書いた。なぜ、これがパクリと言えるのか、滔々と書いた。

詮索好きのさえこがそのブログを読んでいるであろうことは織り込み済みであった。

翌日、さえこの3つ目の記事がアップされたが、2つ目の記事の時あんなに得意になっていたのとは真逆に、何の告知もなかった。それは、矢部のブログを読んでいる証でもあった。

 

4つ目の記事は、間に別記事を挟まないでアップされた。それも、「間に別記事を挟むなんておかしい」と書いた矢部のブログを確実に読んでいるという証拠になった。

 

矢部にしてみれば、「バーカ」と言って終わる話に過ぎない。

しかし、さえこは何がしたかったのだろう。

 

オリジナルで書いたものをちょっと文言変えたところで、切り口も構成も同じであったら、それはパクリだ。

そして、4部作であるにもかかわらず不自然に間に別記事を挟んでごまかすとか、矢部がブログを書いた後のリアクションとか、パクった物的証拠も状況証拠もいくらでも残っている。

 

しかも、名前を出してパクリなんて狂気の沙汰だ。

例えば、一流のビジネス誌に寄稿しているような人たちがパクリなんてやるだろうか。そんなことをしたら大問題だし、そもそもそんな人は書かせてもらえない。オリジナルな切り口がないから。

つまり、名前を出して、パクリ記事を載せるということは、自分にはライターとしての資格も能力もありませんと宣言しているようなものだ。

 

百歩譲って、生活のためお金を稼ぐためにパクリ記事を書いているとか、まだライターとしての経験がないからパクリ記事で腕慣らしとか、いいとは思わないけれどもそういう人は少なからずいるだろう。でも、そういう場合は無記名とかニックネームとかだ。絶対に名前を出さないだろう。自分の将来を潰さないために。

 

どういう風に考えてみてもさえこの行動は理解ができなかった。

 

そして、そんなパクリ疑惑を持たれたさえこの記事は削除されるはずもなかった。

首謀者は谷藤なのだから。ライターが記事のアップをコントロールできるはずもなく、裏に谷藤がいるのは矢部から見ても明らかだった。

谷藤にとってはPVが大事で、何か問題が起れば、それはさえこの問題であって、自分は「知りませんでした」と言えばそれで済む話だと踏んでいた。

それどころか、記事のアップの後、「自分たちのオリジナルです」とでも言いたげな、「占い x お金」の動画をこしらえてアップするくらいふてぶてしかった。

 

「えー、見つかっちゃったのぉ?大変だねぇー」という抑揚のない仲間たちの返事。


「冴えないさえこ」

さえこの頭の中には、母の声がこだましていた。母の刷り込みはそう簡単には消えなかった。

fin

本コラムは、講師個人の立場で掲載されたものです。
コラムに記載されている意見は、講師個人のものであり、カフェトークを代表する見解ではありません。

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