日本では「書く」教育が足りない

kuro

興味深い記事がありました。

日本、アメリカ、フランスの作文指導の違いを研究した記事です。

「日本の国語教育では書き方の様式を教えず、 創作文を書かせませんが、それはなぜですか」
http://berd.benesse.jp/berd/center/open/berd/backnumber/2006_06/fea_watanabe_04.html

3国の作文指導はそれぞれ特徴があり、その指導にきれいに対応するかたちで生徒の文章表現の傾向も違ってきます。

日本:「思ったまま」を時系列にならべて書く

明治以来、「型」を重視する書き方が指導されてきましたが、大正時代に「子ども中心主義の新教育運動」が起こり、自分が体験したことを思った通りに書くということが重視されるようになったようです。そうした教育では「型」というものはあまり重視されません。

そうなると時系列に並べて書く、ということぐらいしかできなくなります。これでは持論を展開する手法は学べません。

小学校まではそれでもいいのかもしれませんが、重要なのは中学高校に至っても新たな小論文の「型」を学ばない、ということです。ですから、大学受験のときに小論文で苦労する生徒は多いです。そもそも日本の国語教育は「読解」を中心としていることも原因なのでしょう。論文としての「型」の修練ができていないまま、大学生になってレポートを課されても困ってしまいます。

アメリカ:自分の考えをいくつかの理由を挙げて主張する

アメリカの小学校では「小論文」と「創作文」の二つの書き方を教えられます。小論文はきまった形式で、まず自分の考えを書き、その理由を三つほど挙げて、最後に結論を書く、というものです。この型の成立の起源は浅く、1960年代に大学が大衆化して様々な背景を持った学生が入ってきたことで、「分かりやすい」レポートの書き方が求められ、その手法が小学校にも下りてきたということです。

どういう意味で「分かりやすい」のかというと、「対立意見についての考察が重視されない」一直線な意見表明のかたちをとるところです。

そういう意味ではフランスの小論文の教え方はより複雑です。

フランス:自分の考えと相手の考えを対置させ、総合する

フランスの教育はローマ時代からの2000年の歴史のもとに成立しています。高校までで、自身の考えや一般的な考えを述べながらも、その反対意見を述べ、両者を総合するような書き方を教えられます。最近巷でもてはやされている弁証法(アウフヘーベン)という哲学的な論考のかたちですね。これによって、さらに高次な結論にたどり着こうという考え方です。生徒全員が上手に使いこなすのは難しいかもしれませんが、高い理想のもとに立っている教育法だといえます。

・・・これら三つの国の作文指導を見て思うのは、(まあ、日本が頼りないなとは思いますが(笑))どれが良くてどれが良くないということ以上に、自分の考えを表現するには、文章の「型」を学び、それを使いこなすことが必要だということです。事実、子どもたちの意見表明の方法は、それぞれの国の教え方に大きく影響を受けたものとして表れています。

上の記事で、特に印象に残ったのはこの部分でした。

日本の教師は、(中略)「自由に、思ったままを書けばいいんだよ」と励まして子どもに作文を書かせます。しかし、でき上がった作文は、どれも驚くほど似通っています。その一方で、一見自由な印象を受けるアメリカの小学校では、実は厳しい文章の「型」の訓練と、技術的指導や添削が行われます。その結果として生み出されるのは、各自が書く目的に応じて様式を選び、そこに個別の意見が主張され、ときにはさまざまな様式を組み合わせる多様な作文です。
 ここには、「自由」を重視している方が結果的に「規範」にとらわれ、「規範」を重視している方が結果的に「自由」な多様性を生む、というパラドックスが見られます。

何も手段を与えずに「自由に書いて」というのは、泳ぎも教えずに水泳をさせるようなものです。

読解に偏りがちな日本において文章表現する技術をつけるためには、書くための「型」、つまり「書き方の選択肢」を与え、練習を積むことが大切です。

それぞれの生徒の習熟度に合わせて(これが難しいのですが・・・)、文章表現の方法を教えていくことも教育側の責任なのかなと思います。

This column was published by the author in their personal capacity.
The opinions expressed in this column are the author's own and do not reflect the view of Cafetalk.

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