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Cafetalk Tutor's Column

もり まさこ (Masako Mori) 講師のコラム

『女殺油地獄(幸四郎)』(おんなごろし あぶらのじごく)~シネマ歌舞伎

2019年11月13日

今月も月イチ歌舞伎(シネマ歌舞伎)を観てきました。
2018年7月大阪松竹座で行われた襲名披露公演の演目です。
急に思い立って行ってみると「解説付き」で、
上映前に作品の簡単な解説を聴いてからの鑑賞となりました。

詳しい内容解説はこちらのページをご参照ください。

今回の作品は取り上げどころ満載です。
女優松たか子さんのお兄さんとして紹介されることも少なくなかった現幸四郎さん(旧染五郎さん)は過去には歌舞伎の舞台ではなかなか代表作と言われるものが無かったように思います。

最近ではラスベガスで『鯉つかみ』『獅子王』を公演したり、猿之助さんと組んで『東海道中膝栗毛』
に出演するなど大掛かりな舞台効果を駆使して話題になっています。

この『女殺油地獄(幸四郎)』(おんなごろし あぶらのじごく)でもクライマックスで実際に濡れる効果を使っているところも見どころの一つで、上映前の解説によると、本舞台の映像のほかにこのシーンは別撮りして油の滴る音が効果的に聞こえるように三味線の音を控えているそうです。
でも、その部分だけ別物という感じではなく実際の舞台のように引き込まれます。
幸四郎さんは与兵衛(殺人者となってしまう男)を演じています。美形の役者さんが悪人を演じると凄みが増しますね。
(登場人物の与兵衛は本当の悪ではないらしいというところは何ともやりきれない気持ちにさせられます。)
相手役で無残に殺される事になってしまう女(お吉)に市川猿之助さん。
なかなかの女形(おやま)で驚きます。ほんとに芸のしっかりした役者さんです。(演出にも秀でていて最近の私のお気に入りです。)
ちょい役ですが、与兵衛のとばっちりで浪人となる事になる与兵衛の叔父(森右衛門)を市川中車さんが演じています。
2012年に突然歌舞伎の世界に飛び込んだ俳優香川照之さんはドラマにCMにと活躍しながら、だいぶ歌舞伎にも慣れてきた感じで、息子の為にがんばってるんだな~と。
もっと頑張ってるなと感じたのは与兵衛の両親を演じているベテランのお二人。
母(おさわ)を坂東竹三郎さん、継父(徳兵衛)を中村歌六さんが演じています。
この両親のやり取りがけっこうセリフが多いのですが、この二人の場面でじんとさせられ涙を拭っている人が多く見受けられました。
近松門左衛門の原作が現代の世の家族や人との関わりのなんとも一言では片付けられない心情にも通じるものがあって、名作と言われる所以でしょうか。
実際にあった事件を元に描かれているということを考えると、人の世、人の情に昔も今も変わりはない事、理屈では説明できないこともあるのだと言う事にも思い至る作品です。
是非、解説付きで鑑賞してください。
各月イチ歌舞伎上映館で11月28日までです。










本コラムは、講師個人の立場で掲載されたものです。
コラムに記載されている意見は、講師個人のものであり、カフェトークを代表する見解ではありません。

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